気遣いは、無言より一言添えて
説明を尽くして解釈を委ねる、受け取り方はコントロールできないけど伝える誠意は尽くせる
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出張先の海外で、靭帯を損傷したことがある。
クライアントとの商談がおして、次の商談に間に合わないと走っていた時だった。タイルがでこぼことした道で、楽しく街を歩く人を避けながら小走りで歩いていたら、ヒールを履いた足が見事にねじれた。
あ、と思った瞬間には目の前が暗くなり、それでも商談に向かいなんとか終えたら、1時間後にはサリーちゃん足に。クレカの海外旅行保険窓口に連絡し、通訳を伴って夜間の救急窓口に行き、処置をしてもらった。
旅行者なので松葉杖は借りられず、足をひきずってホテルに戻り、ギブスの上からビニール袋で足をぐるぐる巻きにしてシャワーを浴び、パッキングをして眠り、タクシーを呼んで空港へ行ったものの、空港の入り口からカウンターまでたどりつくのにひと苦労。
スーツケースを預ける時、カウンターのおねえさんは怪我に気づき「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。笑顔をつくろって「なんとか」と答えたけれど、足をけがしていると普段はなんてことない距離がこんなにも全身に負担になるとは。おねえさんは気の毒そうに手続きを進めてくれた。
スーツケースを預けても、チェックインカウンターから出国審査もまた遠いし、出国審査から搭乗口もさらに遠いし、搭乗してからも席が遠い。帰国が深夜帯だったので車椅子の案内もなく、最も遠いゲートから入国審査まで10分は歩くことに。入国し、スーツケースが出てくるのを待つ時間も長い。
預けたスーツケースは黒いリモワ。エコノミーだったし航空会社の上級会員でもないし、飛行機は満席だったから出てくるのは後の方だろうと思っていた。一番に出てきたのは、黒いリモワだった。プライオリティタグが付いていた。
黒いリモワはいつどの飛行機でも何個も出てくる定番のスーツケースだし、プライオリティというタグが付いているからそもそも自分のではない。
そのまま30分待った。同じように荷物を待っていた人たちはひとり、またふたりと帰っていき、残されたのは黒いリモワと自分だけになった。待てど暮らせど、出てくるはずのもうひとつのリモワは出てこない。
半信半疑で最後の1個になったそのリモワを足をひきずりながらベルトから下ろすと、自分のスーツケースだった。
やさしさで付けられたプライオリティタグが、30分のロスを生むことになるとは。
おねえさん、一言伝えてくれたらよかったのに、、サプライズにしなくてよかったのに、、
この経験により、「気持ちもおもてなしも、伝えてなんぼ」という思いを新たにしました。
親子でも兄弟でも、ましてや他人ともなると、気持ちは伝わらない前提でいよう、と常に思っています。言葉にしたって100%伝わるわけでもなく、100%で伝えようとしない限り100%に達することはなくて。皮肉や嫌味、相手を傷つける可能性のあることはぜったいに口にしない。他人の気持ちをコントロールすることはできないから、自分のできることにせめてフォーカスしたいと思っています。